海外からアーティストを招へいし、港まちでの滞在・活動をサポートし交流するアーティスト・イン・レジデンスのプログラム「港まちAIRエクスチェンジ」。今年度はマレーシア・サバ州コタキナバルを拠点に活動する「パンクロック・スゥラップ」と連携し、パンクロック・スゥラップのスタジオ/レジデンスで滞在制作を行う表現者を派遣する交換プログラムを実施します。
今回公募により、産業近代化の歴史を参照しつつ、リサーチをベースにした映像インスタレーションなどを制作する山本聖子を選出しました。山本は2026年2月よりコタキナバルに滞在し、同地における炭鉱労働や日本との歴史的な関わりについてリサーチ・制作を行います。
また、滞在後は名古屋にて滞在の報告会を実施予定です。
なお、「パンクロック・スゥラップ」のメンバーであるリゾ・レオンとメメット・ジェックが「港まちAIRエクスチェンジ2025:コタキナバル→名古屋」の招聘アーティストとして、10月〜12月の3ヶ月間、港まちに滞在をしています。
参加アーティストプロフィール
山本聖子 Seiko Yamamoto
アーティスト
1981年京都府生まれ、広島県在住。
⾃⾝の育った均質的に区画整理されたニュータウン独⾃の空気や⼈、⽣活の在り⽅への違和感を制作の出発点に、近年はそれに接続する産業近代化の歴史を参照しつつ、リサーチをベースにした映像インスタレーションなどを制作している。
近年の主な展⽰に、「FaN Week福岡現代アート作家ファイル」(福岡城址、福岡、2024)、「福岡アジア美術館レジデンス成果展」(福岡アジア美術館ほか、福岡、2023)、「⾼雄国際鉄鋼藝術節」(第⼆芸術特区/⾼雄、台湾、2023)、「VOCA2021」(上野の森美術館、東京、2021)、「⿇⾖糖業芸術祭」(台南各所、台湾、2019)などがある。「福岡アートアワード」優秀賞(2024)、「Tokyo Midtown Award」アート部⾨グランプリ(2011)、「六甲ミーツ・アート公募⼤賞」グランプリ(2011)受賞。
名古屋では「アッセンブリッジ・ナゴヤ2016|パノラマ庭園-動的生態系にしるす-」に参加し、名古屋港エリアでリサーチ・制作した作品を旧・名古屋税関港寮で展示した。
Web|www.instagram.com/seikoyamamoto12/
選考委員コメント
リゾ・レオン、メメット・ジェック(アーティスト、「パンクロック・スゥラップ」メンバー)
山本聖子の制作プランは、私たちの故郷であるラナウの歴史と静かに深く響き合っている。鉄と銅が採掘されたマムッ採掘場には今なお環境破壊の痕跡が残り、掘り進められた大地の記憶が眠っている。彼女が「鉄は身体」と捉え、彫刻の音を「抵抗の声」として扱う視点は、掘削の痕跡、労働に従事した身体、そして破壊と再生の記憶を抱えるラナウに寄り添うものとなるだろう。
また、山本がこれまでのプロジェクトで示してきた「刻む」という行為の拡張――素材や風景へ働きかけ、奪われた土地に再び声を与えるような表現――にも強い魅力を感じる。また彼女の実践に根づく共同制作や連帯の姿勢は、パンクロック・スゥラップが大切にする価値観と深く共鳴する。本AIRを通じて、彼女のアプローチが日本の鉱業史とラナウに残る身体と土地の記憶をつなぎ、新たな対話を生み出すことを期待する。そしてその試みが、私たちのコミュニティに新しい視点をもたらし、協働的かつプロセス重視の文化をより豊かに育むと確信している。
(廣田 緑 訳)
廣田 緑(造形作家、文化人類学者、国際ファッション専門職大学准教授)
最終選考に残った応募者から1名を選ぶことは容易ではなかったが、5名の審査員による多角的な議論の結果、山本聖子が選出された。山本は多様な背景をもつ人々との共同制作の経験が豊富で、パンクロック・スゥラップメンバーやサバ州の人々と円滑なコミュニケーションを図れると判断した。またパンクロック・スゥラップが本AIRで重視した「協働メソッドを学び、持ち帰って日本のコレクティヴに還元できる人材」という点でも、山本はそれを実現させる基盤を充分に備えている。
また彼女が取り組んできた“身体のメタファーとしての鉄”と、そこから展開した炭鉱労働のテーマは、炭鉱を有するサバ州とも強く響き合う。暗闇で坑道を掘る労働者の動きから着想した「抵抗の音」としての木版を刻む行為を探求し、映像インスタレーションへと展開するプランも非常に興味深い。かねてより木版画家との協働を望んできた山本が、PSの掲げる「共同体を生成する手法」としての木版画を深く理解し、日本とサバ州の間で新たな共同体を生み出すことに期待したい。
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関連リンク
港まちAIRエクスチェンジ2025:コタキナバル→名古屋
港まちAIRエクスチェンジ2025:名古屋→コタキナバル